脳波計の弁別比とは?

生体現象測定記録・監視用機器

はじめに

脳波計で測定される脳波は、大脳皮質における錐体細胞と呼ばれるニューロン(神経細胞)の興奮(活動電位)に伴う電気的な信号を反映したものです。
この脳波は人体から発せられる電気的信号の中でも最も微弱なものであるため、これを検出、測定するためには「差動増幅器」と呼ばれる機器が非常に大きな役割を担うことになります。
そして、この差動増幅器の性能を表す指標が「弁別比」と呼ばれるものなのです。
以下では差動増幅器の仕組みと弁別比について詳しく見ていくことにしましょう。

差動増幅器の仕組み

脳波として頭皮上に現れる信号の電圧は数μVから数百μVと非常に微弱なものであることから、検査や研究の目的でそれを観測するためには、より大きな信号へと変換する必要があります。
この変換が「増幅」であり、それを行うため脳波計に取り付けられているのが差動増幅器です。

差動増幅器には、2つの入力端子(マイナスとプラス)があります。
それぞれに入力された信号のうち、マイナス側に入力された信号は波形が反転された状態で出力されることになります。
したがって、波形にズレのない同相信号のうちマイナス側に入力された信号は反転することとなり、プラス側に入力された信号と相殺し合うため、結果として出力が抑制されます。

これに対して、波形(位相)が180度回転した状態の逆相信号では、同相信号の場合とは逆に信号が重なり合うこととなり、増幅された信号が出力されることになります。
そして、脳波計に入ってくる信号のうち、脳波は逆相信号として、商用の交流電源などから発せられる雑音は主として同相信号として入力されますので、雑音は抑制され、脳波が増幅されることになるのです。

弁別比とは?

といっても、実際にはすべての同相信号が抑制されるわけではなく、いくらかは雑音も出力され、その性能は差動増幅器によって異なります。
この性能を表す指標が弁別比であり、同相信号除去比あるいは信号対雑音比などとも呼ばれます。
弁別比あるいは同相信号除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)は以下の式で表されます。

CMRR=差動利得/同相利得 (利得とは増幅の度合いのことです)

差動利得とは逆相信号(脳波)の増幅度、同相利得は雑音の増幅度のことを指しています。
ですから、差動利得が大きければ大きいほど、そして同相利得が小さければ小さいほど、つまり弁別比が大きければ大きいほど優れた差動増幅器ということになるのです。

最後に

繰り返し述べたように脳波は非常に微弱な信号であるため、その測定にあたってはさまざまな雑音による影響を受けやすくなります。
ですから「雑音対策をどのくらい実現できるか?」が脳波測定の成否を決めるといっても過言ではありません。
このため脳波計の差動増幅器にはより大きな弁別比が求められることとなり、日本臨床神経生理学会の定める基準では少なくとも100デシベル(100000倍)でなければならず、120デシベル(1000000倍)以上が望ましいとされています。

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