脳波計の弁別比について

生体現象測定記録・監視用機器

脳細胞から生じる生体電気を電位差として捉え、その時間に伴う変化を波形に描き出すことで脳の状態を判定する脳波計。その性能を示す指標の1つに弁別比があります。それはどのような意味を持つ要素なのでしょうか。見ていきましょう。

弁別比とは

先に結論から述べると、弁別比とは、脳波計内部の装置・差動増幅器が同相入力電圧をどの程度抑制できるのかを示す数値のことです。単位にはデシベル(dB)を用い、その値が高いほど、差動増幅器が高性能であることを意味します。

簡易に言い直せば、検査時に入り込むノイズ、主に交流障害を除去する能力と言えるでしょう。どういうことなのか、意味を噛み砕きながら展開していきたいと思います。

差動増幅器

脳細胞1つ1つに生じる電気的反応は極めて微弱です。脳波計では、それらの成分が合成された形で検出されることになります。しかしそれでも脳以外の要因から生じる周囲の電気的要素と比較すれば、桁違いに小さいものと言えます。

それをこのまま検出しても、環境中の電磁波や脳以外の筋肉などに由来する電気的反応がほぼ全体を占め、目的である脳活動由来の成分が取り出せません。

そのような問題をクリアするために用いられているのが差動増幅器です。これによって、脳
以外の要素に起因する電気的反応を除去し、残った部分すなわち脳活用に由来するとみなされる成分をデータとして扱うことができるわけです。加えて、その残った成分を増幅し、より詳しく表す作用も兼ね備えています。

同相と逆相

差動増幅器はどのようにしてノイズ要素を消し、脳活動由来の要素を増幅しているのでしょうか?

それは、差動増幅器が持つ反転入力という仕組みによってなされます。脳波検査では、患者さんの頭部21箇所に電極を配置し、その組み合わせによって任意の2点を導き出し、その間の電位差を検知するという方法が取られます。

脳活動に伴う電流・電圧はその向きや大きさが変化するため、電位差は波形信号となって検知されます。脳活動そのものの信号よりも外的ノイズによる信号が圧倒的に大きいため、その波形はどれも似たような形になると言えるでしょう。

波の相が同じ、すなわち同相的になるわけです。反対に、極めて小さな異なっている部分は、一致しない逆相となります。

差動増幅器は、入力側が2箇所、出力側が1箇所という構造になっています。検知された2点の電位差が入力され、それが1つに合成されて出力されるわけです。その時、入力される2つの波形信号のうち1つは、反転した形すなわち山と谷が逆転した形となって入ってきます。

そのままの波形と反転した波形が合成されると、同相部分は相殺され、逆相部分は強められる形となります。この作用によって、ノイズが主体となる同相部分が抑制され、残った部分すなわち脳活動由来と目される逆相部分が強められるというわけです。

同相・逆相と弁別比の関係

増幅器の入力と出力の比を利得と言います。同相および逆相において、それぞれの利得は、
出力される電位差/入力される電位差、という関係で表されます。同相においては相殺された比率を、逆相においては増加した比率を意味するわけです。

同相と逆相それぞれの利得の比を表したものが弁別比となります。関係式で示すと、
「弁別比=逆相利得/同相利得」という形になります。

余りにも桁に開きが生じるため、常用対数に置き換えた数値が用いられ、dBの単位で表されます。一般的には、脳波計の弁別比は60dB以上であることが求められています。

まとめ

以上のように、弁別比は同相信号すなわちノイズをどれだけ抑制できるかを示す指標であることを確認いたしました。差動増幅器はその原理により、逆相を強める効果も併せ持ちますが、脳波計としてはノイズ抑止を主眼に評価されると言えるでしょう。

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