脳波計の性能指標の1つ・弁別比とは

生体現象測定記録・監視用機器

脳活動に伴う電気的変化を捕捉し、脳の状態を判別する医療機器・脳波計。そのスペックを表す性能表には、「弁別比」という項目が記載されています。これは、どのような性能を意味する指標なのでしょうか。基本を抑えつつ、概略的かつ大まかに見ていきたいと思います。

脳波計とノイズ

人間の脳は、1000億~2000億個もの脳細胞で構成されています。それらが神経細胞によるネットワークを形成し情報を伝達しあうことで、脳が活動するわけです。それに伴って、脳細胞には電気的反応が生じることになります。

その電気的反応を電位差として検知し、脳波として表す検査機器が脳波計です。脳波とは、脳に生じる電位差の変化を、縦軸電位差・横軸時間のグラフ上に表したものを指します。その脳波の特徴から、脳の状態や機能の仕方を判別するのが、脳波検査となります。

人間の脳で発生している電気反応は、自然界に存在するその他の電気反応と比較して極めて微細です。そのため、脳波検査時には、脳の働きに伴う電位差以外にも、筋肉など脳以外の生体組織から生じる反応や、環境中の電磁波などを感知してしまうことになります。これらノイズに相当する要素は、本来調べるべき脳由来の電位差よりはるかに大きな値を示します。

そのため、脳波計にはノイズを除去する機能が求められることになるわけです。ノイズ除去の一端を担う電子回路として差動増幅器が用いられ、その性能を示す指標が弁別比ということになります。

差動増幅器

脳波に現れるノイズの影響には2通り挙げられます。1つは、電位差すなわち脳波グラフ上の縦軸成分に現れるノイズであり、通常の脳波とは桁違いの振幅が生じます。もう1つは波形の周波数に現れるノイズであり、適正な脳波判別の妨げとなります。

これら2通りのノイズ影響のうち、電位差の大きさに対応する仕組みの1つに位置付けられているのが差動増幅器です。電磁波など環境的要因のノイズに起因する電位差を除去し、それ以外の電位差を増幅するという役割を担います。

差動増幅器は、信号の入力側が2箇所で出力側が1箇所という構造となっています。また、1方の入力信号を反転させるという特徴も併せ持ちます。つまり、回路に入ってきた信号のうち1つをそのままの形状、もう1つを逆転させた形状とし、双方を合成させた信号を出力側に出す、というように機能するわけです。

脳波検査は、患者さんの頭部21箇所に電極を取り付け、そこから電位差を波形信号として検知する流れで行われます。ノイズはおおむね電極取り付け範囲内に広く影響を及ぼすため、ノイズが混じった信号はいずれも同じような形状となります。

そのノイズ込みの信号を差動増幅器に入力すると、2つの入力のうち1つは反転して合成されるため、似通った部分は相殺されることとなります。似通った部分、すなわち電磁波など環境的なノイズが、これによって打ち消されるというわけです。

他方、入力された2信号のそれぞれ異なる部分は、増幅されることになります。その部分は、外部環境の影響に依らない、身体組織の反応に基づく信号と見做されるわけです。その後のノイズ除去処理により、筋肉による反応など脳波以外の信号も取り除かれることとなります。

弁別比とは

差動増幅器の性能として、2通りの見方が立てられます。相殺された部分すなわちノイズ除去された部分の比率を示す同相利得と、増幅された部分すなわちデータとして残された部分の比率を示す逆相利得です。

その同相利得と逆相利得を比較して表した指標が、弁別比となります。式で表すと以下のような関係となります。

弁別比=逆相利得/同相利得

この場合、双方の利得は桁違いにかけ離れます。そのため常用対数に置き換えた形で表されることになり、それに合わせてdB(デシベル)の単位に換算されます。

現在、一般的に使用されている脳波計の弁別比は60dB以上であることが望ましいとされています。

まとめ

以上、脳波計には、外的要因のノイズによる電位差への影響を除去する機能として差動増幅器が内蔵されており、弁別比はその差動増幅器の性能を表すものであることを確認いたしました。医療機器の仕組みへの理解を深めることで、より精度の高い適切な医療が可能となるでしょう。

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