デジタル脳波計におけるフィルタの役割について

生体現象測定記録・監視用機器

脳内の微弱な電気的変化を観測し、脳の状態を判別する脳波計。中でもデジタル脳波計は、従来のアナログ型と比較してより多角的な検査が可能となります。デジタル脳波計において欠かせない機能にフィルタが挙げられますが、どのような役割を果たすものなのでしょうか。

デジタル脳波計とは

脳波計電極から得られるアナログデータをデジタルデータに変換して、検査結果に反映する医療機器がデジタル脳波計です。

脳波検査は通常、頭部表面に21個もの電極を配置して行われます。これによって、脳活動に伴う電気変化を電位差として検知します。そして電極ごとに得られた電位差の時間変化をデータとして用い、単極誘導、双極誘導、平均基準電極法などといった方法で組み合わせ、脳波を導出するわけです。

そこから得られる脳波の組み合わせは膨大な量となり、検査とリアルタイムで脳波を描き出すアナログ的手法では僅かな限られた解析しか行えません。

データをデジタル化して記録しておけば、様々な組み合わせによる脳波の導出すなわちモンタージュが可能となります。これにより、脳状態についてより詳しく検査・解析を行うことができるわけです。

データのデジタル化に不可欠なフィルタ機能

脳活動に由来する電位差データをデジタル化するには、幾つかの条件を要します。まず、脳波として導出される波形に関して、その周波数の上限および下限を設定することが挙げられます。

周波数の上限を高く設定すれば、それだけ多くの成分を含むデータと言うことになり、より精度の高い波形が得られます。精度に着目した時、周波数上限に関する要素をサンプリング周波数と言います。

また、脳活動以外の電気的反応に基づくノイズ成分すなわちアーチフェクトあるいはエイリアシングノイズを除去する必要もあります。デジタルデータとして記録保存を行う前に、明らかなアーチフェクトを除いておくわけです。

加えて、デジタルデータを再現する際、その時定数を考慮に入れる必要もあります。実際の検査後、各電極で検出されたデータから任意に組み合わせにより脳波を導出するには、電極データ自体を再現するところから始めなければなりません。

この再現に用いられるのは実際のアナログデータではなく記録保存されたデジタルデータです。デジタル的な再現を行う際、起動後出力が定常状態になるのに若干の時間を要します。出力が定常状態の63.2%に達するまでの時間が時定数となります。

これらの条件についてはフィルタによって対応されます。つまり、サンプリング周波数、アーチフェクト対策、時定数設定がフィルタの役割に当たるわけです。

フィルタの種類

前項の条件を満たすためデジタル脳波計に用いられているフィルタは、高域遮断フィルタと低域遮断フィルタです。

高域遮断フィルタ

設定された周波数より高いものについて減衰させる性質を有し、ローパスフィルタとも呼ばれます。

サンプリング周波数の決定に関係し、サンプリング周波数の1/2すなわちナイキスト周波数をフィルタとしての値に用います。

患者さんの脳内電気反応を測る実際の検査時すなわちデジタル変換前では、サンプリング周波数1000Hzが推奨されています。そのため、理論上ではナイキスト周波数500Hzが設定値とされます。

しかし実際にはナイキスト周波数通りに設定しても充分に減衰されないこと、およびアーチフェクト除去の観点を考慮に入れ、300Hzを主に用いることとなります。

低域遮断フィルタ

設定された周波数より低いものを除去する性質があり、ハイパスフィルタとも呼ばれます。
ハイパスフィルタの設定周波数をF、時定数に相当する時間をRCとすると、以下のような関係式が成り立ちます。

F=1/(2πRC)

すなわちハイパスフィルタの周波数を決めれば、時定数が決まるわけです。

患者さんの臨床検査時すなわちデジタル変換前において、時定数は通常2秒とされています。しかし眼球運動に由来するアーチフェクトの検出など、状況に応じて10秒を用いる場合もあります。

まとめ

以上の内容を要点にまとめると、デジタル脳波計のフィルタについて以下のことが言えます。
◆サンプリング周波数の設定、アーチフェクト対策、時定数の設定などを目的として備えられている。
◆基本的に、設定値より高い周波数を減衰する高域遮断フィルタ(ローパスフィルタ)、設定値より低い周波数を除去する低域遮断フィルタ(ハイパスフィルタ)、の2種類をメインに用いている。

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