MRIにおける脂肪抑制とは

診断用機器

はじめに

医療の現場において診断のために欠かせない存在となってきたMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)装置。
このMRI装置を使って体内の疾患や損傷の様子を見るために大きな役割を果たしているのが「脂肪抑制」という方法です。
今回は、この「脂肪抑制」について説明します。

脂肪抑制とは

脂肪抑制について説明する前に、まずMRIが体内の画像を得る仕組みについて簡単に見ておきましょう。
強力な磁場の中に物質を置き、ある周波数の電波をあてると物質の内部にばらばらな方向を向いて存在している水素原子は、一斉に同じ方向を向くようになります。
この現象は「磁気共鳴現象」と呼ばれています。
電波をあててからしばらく後にその電波を切ると、水素原子の向きは元の方向に戻っていくのですが、この戻り方のスピードには、各々の水素原子が置かれている状況によって違いがあります。
MRIは、このスピードの違いを信号にすることで画像を得ているのです。

ところで、ヒトの体内にある水素原子は、そのほとんどが水と脂肪に存在しています。
MRIを使って腫瘍や出血、炎症などの様子を知りたい場合には、水に含まれる水素原子の様子を読み取る必要があります。
水素原子からの信号を読み取るためには、脂肪の水素原子から発せられる信号を抑制しなければなりません。
そのための方法が脂肪抑制なのです。

脂肪抑制法の種類

脂肪抑制法には以下の3つがあります。

CHESS法

CHESS法は、選択的脂肪抑制法とも呼ばれます。
磁気共鳴の周波数(共鳴周波数)は同じ水素原子であっても、その水素原子が置かれている化学的な環境の違いによって異なります。
CHESS法は、水と脂肪の共鳴周波数の違い(差)を利用して、脂肪の水素原子から発せられる信号を抑制する方法です。

STIR法

電波を切ってから水素原子が元の方向へ戻っていくのにかかる時間は「緩和時間」と呼ばれます。
緩和時間には「縦緩和時間」と「横緩和時間」があり、STIR法は、「縦緩和時間」が水と脂肪では異なることを利用した脂肪抑制法です。
なお、この方法では必ずしも脂肪からの信号のみが抑制されるとは限らず、「縦緩和時間」が脂肪と似た組織からの信号も抑制されるという短所があります。

位相差を利用した方法

CHESS法のところで説明したように、同じ水素原子でも共鳴周波数はその原子が置かれている環境によって異なります。
共鳴周波数が異なると、原子核の運動(スピン)速度にも差が出てくることになります。
このスピン速度の違いによってもたらされる位相(位置)の差をから、計算によって水と脂肪の画像を作成する方法もあります。

最後に

個人差はありますが人間の身体のうち約15~25%は脂肪から構成されています。
MRIを用いて正確な診断を行うためには、この脂肪を抑制するための技術が欠かせないのです。

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