脳波計における時定数の役割

生体現象測定記録・監視用機器

脳細胞から発せられる電気反応を電位差として検知する脳波計。それによって、時間に伴う電位差の変化を示した脳波が描画されます。検査に有効な脳波を得るには、適切な範囲の周波数を取ることすなわち、それに対応した時定数を設定することが重要となります。どういうことなのか見ていきたいと思います。

脳波とは

人体を構成している細胞は微弱な電気を発しています。それは脳細胞も同様であり、脳波検査では脳細胞から生じる電気反応を電位差として検出し、縦成分を電位差・横成分を時間とした座標上に脳波が描き出されます。

その脳波の形状から脳の状態が判別されるわけです。脳波に関しては、1秒間に波の振幅が何回現れているかという周波数(単位:Hz)が目安として用いられます。

これまでの研究から、脳波には、δ波(0.5~4Hz)・Θ波(4~8Hz)・α波(8~13Hz)・β波(13Hz~30Hz付近)の4種があるとされています。一般的な成人において、熟睡時に現れるのがδ波、浅い睡眠状態で現れるのがΘ波、覚醒時の安静時に主に見られるのがα波、ストレス時など活発に活動している際に主となるのがβ波となります。

それら脳波がどのように現れているか調べることにより、脳疾患の有無を確認するわけです。

測定の仕組み

脳波検査は、患者さんの頭部の所定位置に21個もの電極を取り付け、そこから検出される電位差の信号を読み取ることで行われます。

しかし、脳細胞から生じる電気反応は極めて微弱です。機械類から発せられる環境中の電磁波がより強いものと言えるでしょう。そのため、電極に入って来る信号は脳波以外のいわゆるノイズに相当する部分が多くなります。適正な脳波を得るには、それらノイズを取り除く必要があるわけです。

ノイズ除去の問題を解消すべく、脳波計には差動増幅器と周波数フィルタという仕組みが備わっています。差動増幅器によって外部からのノイズに相当する成分を抑制し、周波数フィルタによって脳波の範囲外の周波数を遮断するというわけです。

周波数に関して、脳波ではδ波からβ波まで、該当する範囲があらかじめわかっています。その範囲にあわせて、周波数フィルタを設定することになります。

実際の脳波で使用されるフィルタは幾つかの種類に分かれますが、基本的に用いられるのはローパスフィルタとハイパスフィルタです。脳波として透過させる周波数の上限についてはローパスフィルタ、下限についてはハイパスフィルタによって設定されます。そのうち、ハイパスフィルタの設定に関係してくるのが時定数ということになります。

脳波計における時定数

時定数とは、電気回路内に電圧すなわち電位差が入力され、それが出力時の電圧まで変化する際、ある割合に達するまでに掛かる時間を意味します。その割合とは、出力が増加する際には約63%、減少する際には約37%となります。

脳波検査において、入力電圧すなわち電極で検知された電位差は、ノイズが除去され実際の脳波データに用いられる電位差すなわち出力電圧へと変化することになります。ノイズ成分が除かれるため、出力電圧は減少するものと考えて宜しいでしょう。

入力電圧が出力電圧に変化するまでには時間を要します。変化の度合が約37%に達する時間が、脳波計の時定数というわけです。

時定数とハイパスフィルタで定められる周波数には、以下のような関係式が成り立ちます。
f=1/(2π×τ)
f:ハイパスフィルタの周波数
π:円周率(約3.14)
τ:時定数
これにより、時定数すなわちどれくらいの速さで出力電圧を得るかという設定により、測定される脳波について周波数の下限が決まることになるわけです。

前項で見た通り脳波の周波数の下限はδ波に相当する0.5Hzとなります。脳波検査では、その0.5Hzをハイパスフィルタによって遮断される周波数の境界値とすることが適切ということなります。その0.5Hzを上記に当てはめると、δ波を含む適正な脳波を描き出すには、時定数を約0.3秒に設定するべきということになるわけです。

まとめ

以上の通り、脳波検査時のノイズ対策の1つとして周波数フィルタが用いられており、そのフィルタ処理で透過される周波数の下限値については、時定数で設定されることを確認してきました。脳波に属する周波数全域を視野に入れて判読する場合、δ波も含まれるよう時定数を0.3秒とすることが適切です。

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